豚を通して、命とは?を投げかける豚造形家。【後編】
No.325
はたらく
おいしい作物を作るには土作りが大事と、よくいわれますね。今回は、その土作りに重要な堆肥のお話です。
ご紹介するのは、豚のフンから作られた堆肥。家畜のフンを使った堆肥自体は珍しいものではありませんが、この「豚ふん おがくず堆肥」は、使われ方がとても魅力的なのです。山形県山辺町を舞台に、地域でうま〜く循環するエコなビジネスが展開されていました。
畜産農家にとって、動物の糞尿の処理は避けて通れないこと。1965年から養豚業を営む「山形ピッグファーム」でも至上命題でした。育てる豚が増えれば増えるほど、毎日出る糞尿は大量になるばかりー。(現在は山辺町と東根市にある2つの農場で21,000頭もの豚を飼育)
こうした状況から先代社長時代の1998年、「処理しなければならないものなら、うまく使おう」と、豚のフンを堆肥化する事業に乗り出しました。
「糞尿の適正な処理は法的に義務づけられていて、費用をかけて焼却処分するところもありますが、ウチの場合は活用する方向で堆肥作りを始めました。せっかくの天然資源を活かさない手はないですから(笑)。
この豚ふん堆肥を、地元の田んぼや畑の土に還元して作物を作ってもらう。山形は農業が盛んなので、そんなサイクルができたら、という想いもありました」。
ところで「豚ふん おがくず堆肥作りには」、2009年に町ぐるみで立ち上げたプロジェクトが深く関わっています。それは、山辺町産の飼料用米で山辺町のブランド豚「舞米豚」(まいまいとん)を育てるというもの。(「別記事」に詳しく紹介)
その田んぼには、もちろん「豚ふん おがくず堆肥」が使われています。地元の米が豚のエサになり、その豚のフンが堆肥となって田んぼの土へと還り、またエサの米ができるー。
単に商品を作って終わりではなく、2代の社長が想い描いた「地域で循環するシステム」が、このプロジェクトを契機にたしかに築かれてきたのです。
「温度管理・水分調整・栄養分」これが発酵・熟成させてよい堆肥を作る大切な要素だそうです。自然環境にやさしいバイオマス資源、豚のフンとおがくずを原料に作る豚ふん おがくず堆肥の特徴を見てみると……
○100日以上かけてじっくり発酵・熟成
80日以上、70℃〜80℃の高温を保って発酵、さらに 20日以上熟成。強制的ではなく長時間かけて堆肥化。
○切り返し作業は50回以上
発酵を促すには原料の中に空気を入れることが重要。
そのために原料をかき混ぜる切り返しを十分行う。
※栄養源になるおがくずは、豚フンの水分を吸収して空気が入り込む隙間を作る役割も。
完全に発酵・熟成させた豚ふん おがくず堆肥は、さらさらしてイヤな臭いがしません。それが“完熟”の証拠だそうで、完成した堆肥に近寄ってみましたが、臭わないし、きれい!が第一印象でした。
現在、年間約4000t生産される「豚ふん おがくず堆肥」。品質がよく、そして生産者元がわかる堆肥は、山辺町と東根市のほか周辺の山形市、中山町、寒河江市などの主に米・果樹・野菜農家で使われています。
この区域は、山形県が全国に誇るサクランボの特産地。
あのルビー色に輝く美味作りにも大いに役立っているのです。
「豚ふん おがくず堆肥」は地域のおいしさを支えるエコな存在となり、“ビジネス”として成り立っていました。阿部社長は手応えを感じつつ、先を見据えていました。
「たとえば堆肥・飼料用米・舞米豚で、地域循環型農業の輪がうまく回っていったら、養豚を含めて農業がおもしろくなると思うんです。そうなるには、よいものをきちんと作ることを大前提に、そしてきちんと儲かる農業にしていかないと。食料自給率の低下、担い手不足、TPPなど日本の農業はますます厳しくなります。養豚農家としてやれることはどんどんやっていくつもりです」
「豚ふん おがくず堆肥」の取り組みは、地域循環型農業をビジネスとして成り立たせていくための格好の見本といえるでしょう。
複数の要素を持ち、輪を回すための人の和もある山辺町。次にどんな動きが出てくるのか、興味津々です。