牛と生き 牛だけを描く 木版画アーティスト。【後編】
No.292
はたらく
青森県七戸町の金子ファームが「手作りジェラート店NAMIKI」をオープンさせた第一の目的に、畜産のイメージ改善があった。
「臭い」「汚い」と市民から敬遠されかねない存在だった畜産農場のイメージを刷新し、逆にファンになってもらえるような、発想の転換だ。
そのチャレンジは奏功し、今や金子ファームは市民が楽しみにしながらやって来て、のどかな気分で休日のひとときを過ごせるスポットになった。
「きっかけは反発でした。」と、金子ファーム取締役の金子吉行さんは言う。
「ここは七戸町でも一等地のような好立地なんですが、牧草を育てるために堆肥を撒いていたら、『金子ファームは何をやろうとしているんだ……?』という声も聞こえてきました。」
農業、特に畜産には、汚いとか臭いとかいうイメージがつきまとうが、それとは180度違うイメージを持ってもらう必要があった。
そうして6年前、東北新幹線が延伸して町内に七戸十和田駅が開業したときに、ジェラートのショップをつくろうと決めた。
肉料理も考えたが、ややハードルが高い。チーズだとコスト高になる。でも、ジェラートなら、小さい子どもからお年寄りまで幅広い層に味わってもらえる。
それに、フレーバーとして用いるトマトやカボチャなどは近隣の農家から仕入れれば多少なりとも地域の地産地消に貢献できる。
金子ファームではジャージー牛を約30頭飼っているが、これがいわばジェラートの専門部隊。毎日搾りたてのジャージー牛の牛乳を低温殺菌して手作りでジェラートを作っている。
「森に入ってきたら思いがけなく可愛い店があった」というようなワクワクした驚きを感じてほしくて、ショップの設計にはこだわった。ショップは、ファームの仕事を見てもらって、ファームの仕事に興味を持ってもらうためのアンテナショップという意味合いもあるからだ。
3年前には、「手作りジェラート店NAMIKI」に隣接して「牧場ごはんNARABI」をオープンさせた。
▲おススメの「ナラビごはん(スープ・サラダ付き)」
交雑種の肉を使って焼きしゃぶ風ごはんに仕上げた「ナラビごはん(スープ・サラダ付き)」がオススメだ。
▲赤み肉の旨みがギッシリ詰まった「熟成ステーキ」
そのほか、メンチカツからサーロインステーキまで、牧場直営のショップならではの肉料理が多彩に味わえる。
昨年は15万人以上の来場者があった。広告も出していないのに予想外の集客だった。
消費者が直接ファームを訪れてくれるようになり、おみやげ用商品の需要も生まれた。そこで、既製の商品を仕入れるのではなく、循環型畜産を標榜する金子ファームならではの商品として、ビーフジャーキーやレトルトのビーフカレー、はちみつ、なたね油、にんにくオイルなどを商品開発し、畜産の6次産業化を進めている。
一般市民にとって畜産という仕事は、ネガティブなイメージもつきまとう。それを払拭したくてジェラートのショップをオープンさせた結果、本物志向の取り組みが奏功して予想を上回る来場者数となった。すると新たな需要が生まれ、来場者向けのさまざまな商品開発につながった。これらすべての試みが、金子ファームの標榜する循環型畜産と巧妙に絡み合っているのだ。