鹿児島の畜産の強さの理由に迫る 〜ライバル同士の強豪校が切磋琢磨する鹿児島の農業高校 | どっこいしょニッポン

鹿児島の畜産の強さの理由に迫る 〜ライバル同士の強豪校が切磋琢磨する鹿児島の農業高校

No.370

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10月6日より始まる第13回全国和牛能力共進会(全共)に向けて、鹿児島が畜産に強い理由に迫るシリーズ。今回は農業高校生の視点を追いかけます。訪れたのは、鹿児島県立伊佐農林高等学校・市来農芸高等学校・曽於高等学校の3校。農高生たちの全共に懸ける思いを聞いてきました。

鹿児島県立伊佐農林高等学校
〜共に高め合いながら牛を学ぶ友情

鹿児島県北部にある、鹿児島県立伊佐農林高等学校では、農林技術科大家畜専攻の尾口誠真くん(高2)が、7月に行われた牛の目利き技術を競う家畜審査競技会の高校生部門で見事県代表を勝ち取り、全共への出場を決めている。

この日も大家畜担当の陳尾先生から見極めるポイントなどの指導を受けていた。

 

尾口 僕の家は肉用牛の繁殖農家で、中学生の頃から父と一緒に牛の品評会に行っていて、父や審査員の方が牛を触っている姿から、「こんな風に触ればいいんだな」というのは見てきました。でも、実際に教えてもらって勉強するようになったのは、高校に入ってから。去年は良い結果が出せなかったので、今年は全共もあるということで頑張りました。

同じく大家畜専攻の平田悠賀くん(高2)は、尾口くんと共に切磋琢磨する仲。

平田 僕は鹿児島県最南端の与論島出身で、資格が多く取れるこの高校を選びました。最初は林業の方面へ進もうとしていたのですが、実習で牛と触れ合ううちに癒されることが多く、将来も動物に関わる仕事がしたいなと思うようになりました。誠真はそばで見ていても牛に関する知識や見る目など、「すごいな」と思うことばかりで、僕にとっての憧れです。ふたりで牛の話をすることも多いですね。

鹿児島の畜産の強みについて尾口くんに聞いてみた。

−−鹿児島の畜産の強みってどこにあると思う?

尾口 鹿児島としてはわからないですが、伊佐市は鹿児島の中でも特に寒暖差が激しく、米作り(伊佐米)が盛んな地域なので、牛飼いの中にも稲作をしている人が多いんです。米を売ってわらを牛に使うことで、いい牛ができてコスト削減にもつながっているのかなと思います。

−−全国大会の場は相当な緊張感が予想されるが、今の気持ちは?

尾口 すごい緊張すると思います(笑)

そう笑いながらも、尾口くんから変なプレッシャーは感じられない。日頃から勉強してきた力をただ出すだけ、そんな雰囲気。

尾口くんの将来の夢は、鹿児島県立農業大学校(肉用牛科)で削蹄師や人工授精師の資格を取り、一度他の牧場に勤めてから、実家の繁殖農家で働くこと。実家を継ごうと決めたのは、この高校に入ったことも大きく影響したという。

一方、平田くんの夢は、同じく農業大学校で牛のことをさらに学び、鹿児島のブランド牛を全国に届ける流通の仕事をすること。

互いに影響を与え合いながら共に過ごすかけがえのない高校生活には、日々牛がそばにいるようだ。

牛舎に向かって歩く後ろ姿までどことなく似ている二人


鹿児島県立市来農芸高等学校
〜ここは人として成長させてくれる場所

続いて鹿児島県西部にある、鹿児島県立市来農芸高等学校では、全共の「一般の部」「高校および農業大学校の部」の地区予選を控える5頭の牛たちが手塩にかけて手入れされていた。

こちらは女子6名、男子9名、15人が活動する「畜産部」。ほとんどが非農家の出身だ。

朝夕シャンプー、リンスをして、念入りにお手入れ。
牛たちもさっぱりと気持ちよさそう。

市来農芸高校

最後は全身にクリームを塗り込み、尻尾の毛の先まで丁寧に。

1年生から3年生までの部員たちが、きびきびと無駄なく動き、移動は常に駆け足。まるで野球部の練習を見ているようだ。

時折、顧問の農場長、西野健一朗先生から指導の声が飛ぶ。

市来農芸高校では、農業科と畜産科は1年間寮生活が必須となる。
西野先生は部員たちに、勉強にも力を入れるよう指導する。

西野 自分の管理ができないで牛飼いはできません。学校の授業があっての部活なので、当然成績が下がったら叱られるし、テスト前の土日は朝牛の管理を終わらせて、3時間勉強。家でも2時間以上勉強しないと次の日は牛を触らせません。

地域の方とのコミュニケーションも取れないといけないですし、学生たちには共進会やセリに行っても積極的に農家さんたちと話をするように伝えています。

牛舎では生産牛と肥育牛、合わせて約80頭が飼育され、飼料の配合についても考え尽くされている。

餌をあげる時は牛に声をかけながら行う、というのが先輩たちから続けてきた文化。

市来農芸高校

胸元に「牛一筋」、背中に「牛と共に夢叶える」と書かれたTシャツのデザインも、畜産部に代々受け継がれている。



今年で活動最後となる3年生に話を聞いた。

キャプテン佃隆太くん(左)と副キャプテンの森川裕介くん(右)

−−鹿児島全共に向けて、今の気持ちは?

 コロナ禍で共進会などが次々となくなる中、僕たちが3年になる時に5年に一度の全共が開催されると高校1年生の時に聞いて、この全共にすべてをかけてきました。5年前の宮城大会の時に部の先輩たちが5位入賞したという成績があるので、それに伴う結果を残せるように頑張りたいと思っています。

全共に向けては自分たちの体力も必要ですし、今気持ちを引き締めて最後の追い込みをしているところです。

−−佃くん、将来はどんな道を考えているの?

 鹿児島県の農大を卒業後、小さい頃からよく行っていた農家さんが今どんどん経営を拡大していて、免許を取って帰ってきたら牛舎を一つ渡すから自分でやっていいよと言ってくださっているので、高校・大学で力をつけて、鹿児島県の畜産のために頑張りたいです。

今飼料高騰の大きな問題もありますが、鹿児島は耕作放棄地も多いので、そういう場所で飼料栽培などを行えばコスト削減にもつなげられるんじゃないかなと思いますし、これからは機械を使ったスマート農業をすることが重要になってくると思うので、新しい技術を取り入れながらいい牛を育てていきたいと思います。

もともとは馬が好きでずっと騎手になることが夢だったという佃くん。高校でこの部に入って、夢は大きく変わったようだ。



一方、実家は肥育を営む森川くん。

−−森川くんにとって牛はどんな存在?

森川 かけがえのない存在ですね。

−−「かけがえのない存在」を他の言葉に言い換えたら?

森川 友達以上、家族以上。大切なパートナーですね。実家は指宿で肥育をしているんですが、肥育なので牛は2年ほどで出荷されて、 “かけがえのない存在”とまでは感じたことはなかったんです。高校でこの子たちと間近で接してきて、初めて生まれてきた感情です。

全共予選に向けて、出品牛は朝夕の引き運動も欠かせない。

−−鹿児島の畜産の強さはどこにあると思う?

 他県のブランド牛も鹿児島の子牛を買って肥育していますし、鹿児島黒牛の種を他県でも使っているので、鹿児島に代々続く血統は、和牛の素質としていいものを持っているのではないかと思っています。前回の全共で鹿児島は日本一を取っていますが、肥育技術に関しては大分県や宮崎県に負けているところもあるので、鹿児島がもっと肥育の部分に強くなれば、鹿児島黒牛というブランド名をもっと全国区にできるのかなと思います。

森川 鹿児島には実績を残しているいい農家さんがたくさんいらっしゃいます。皆さん黒牛に対する気持ちが強くて、その思いを聞くと、僕らも圧倒されることがあります。全共は僕らにとっても憧れの場所ですし、いい牛がたくさん集まると思うので、どうやって仕上げたのか、農家さんの世話している姿を見たり話を聞くことも楽しみです。鹿児島の畜産を全国に知って欲しいですね。

−−この部で一番学んだことは、どんなこと?

 先輩方は本当に立派で、牛の接し方はもちろんですが、コロナ禍で共進会などがなくなった僕たちにとって、先輩たちが教えてくれたのは人間的な部分…人としてどう成長していくべきか、どうあれば社会に出た時に通用する人になれるか、という部分が本当に大きかったなと思います。

とそこへ、全共の地区予選へ出品する牛の鼻紋を取りに、JAと市の職員が来校。
JAの指導員はなんと、5年前、宮城県で開催された全共で市来農芸高校から出場した県の代表牛を引いた、益山寧々さん。市来農芸畜産部OGだ。

全共の地区予選にエントリーする牛の鼻紋を取る。後輩たちは先輩から一つひとつを学んでいく。

益山 高1の時に、畜産部なのでいろんな動物がいるのかなと思って入ったら、まさかの黒牛しかいなくって(笑)。でも西野先生から「俺に付いて来れば夢見させてやる」と言われて、その言葉を胸に活動し、高校3年の時に全共の宮城大会(高校生の出品区)の大舞台に立たせていただきました。西野先生には人としてどうあるべきかも含め、1から10まで全部叩き込んでもらいました。高校の青春はすべて全共にかけましたね。

「この部活に入っていなければ、間違いなく畜産の道には進んでいなかった」という益山さん。人生って本当にわからない。でもこれだけ熱くなれるものが、人との出会いがあったことは、間違いなく人生の財産だ。それは引き継がれる。自分が与えてもらったことへの感謝として、自分が得た知識や技術は、惜しみなく後輩へ伝える。それが市来の伝統となっている。

益山さんと共に訪れていたJA、市の職員の皆さん、なんと全員が市来農芸出身ということで、またしても“チーム鹿児島”のパワーを見せつけられた。全員で支え、勝ち取りに行く底力。横つながり、縦つながり、強力に手を取り合う絆が、やはり鹿児島の強さなのだろうと実感しました。


鹿児島県立曽於高等学校
〜成績を残すことで地域還元を目指す

最後にご紹介するのは、鹿児島県立曽於高等学校
取材を回る中でも度々「曽於高校の牛がいいらしい」という話を聞いた。そんな噂が県内に回るほど、鹿児島全共において注目を集める注目校だ。

訪れた日はあいにく3年生たちが検定試験の日で不在。

曽於高校は和牛甲子園の枝肉部門でも二度、最優秀賞に輝いている。
畜産食農科の肉用牛班(畜産同好会)のメンバーは7人。
ここでは40頭ほどの牛(そのうち母牛が15頭ほど)が飼育されている。
非農家でありながらも思いの強いメンバーが集まり、過去には牛好きが高じて、いつでも牛が見られるようにと親に頼んで市場の近くに引っ越した学生もいたという。



肉用牛担当の太田裕士先生に話を聞いた。

−−先生は鹿児島の畜産の強さをどう思われますか?

太田 地域のバックアップが強く、去年は生まれた子牛の中から選定、その後の調教、1日のスケジュールについてもすべてJAの指導員さんや市役所の畜産課の方々が相談に乗ってくださっています。見る目も厳しいので、「こんな牛なら出さん方がいい」など辛辣なことを言われたこともありますし、生徒とも真剣に向き合ってくださって、皆さん誇りを持って畜産に携わっておられるのを感じます。

一番候補、“噂の”「しえな」。生まれた時から暑熱対策、床の環境づくり、共進会の会場に飲まれないよう、人に慣れるために制限哺乳から人工哺乳に変えるなど、なるだけストレスを与えない飼育をしてきた。

−−曽於高校の名前はどの高校でも聞きました。こうしてレベルの高い高校同士がお互いを意識しあって切磋琢磨できるのも、鹿児島ならではなのかなと思います。

太田 そうですね。やはりどの高校もお互いを意識していると思います。ただ、宮崎県が全共を通じて宮崎牛の名前を広めていったように、僕たちも全共や和牛甲子園から鹿児島黒牛の名前や肉質の良さをアピールできると思っています。だから和牛甲子園で自分たちが賞を獲れなかった時も、他の鹿児島の高校が獲って鹿児島黒牛の名前が出ることは嬉しいですね。

手前が「しえな」、奥にいるのが第2候補の「あやみ」

−−やはり思いはそこにあるんですね。

太田 農家さんたちに喜んでいただけるのは、鹿児島黒牛の名前を出すことだと思うんです。鹿児島のお土産を何にしようと思った時には牛肉が選ばれたり、何かの折々に名前が出るようになれば消費量も変わってきますし、農業全体も盛り上がってくるのかなと思っています。

大学時代は農学部で動物バイオの研究をされていたという太田先生。

太田 餌の問題もありますが、やはり血統は大きい。鹿児島は良い種が多いので、かけ合わせは授精師さんたちにも相談しながらとても悩みます。僕は競馬が好きなので、馬と同じ感覚で見ているかもしれないです(笑)

和牛甲子園の枝肉部門で二度最優秀賞を獲得した牛を産んだ母「かぐや」(右)

校内で生まれた牛には生徒の名前がつけられるのが習わし。鹿児島の県民性について、太田先生は心の奥底に「負けず嫌い」な気質があるんじゃないかと分析する。

−−学生の皆さんは、自分たちで育てた牛のお肉を召し上がったことはあるんですか?

太田 第2回和牛甲子園の枝肉部門で最優秀賞を受賞した時は、落札されたお肉屋さんが送ってくださって、学校でバーベキューしてみんなでいただきました。地元の共励会で良い賞を獲って地元のお肉屋さんが落としてくださった時は、息子さんが経営されている焼肉屋さんに招待していただきました。なかなかない機会ですし、皆喜んでいましたね。

本校の畜産食農科では秋に勤労感謝祭があり、生き物に感謝をする「畜魂祭」を行った後に、バーベキューをして自分たちで育てている黒豚を食べるんです。牛は出せないんですが、これも皆が楽しみにしている行事です。

先輩たちが不在のこの日、牛のお世話をしていたのは、高校1年の田實夢佳さん
「先輩方は優しくて頼もしい存在。一度私が紐をかける時に失敗して牛を逃しそうになった時も、すぐに対処してくれました。みんな明るくて、一緒にいて毎日本当に楽しいです」

後日、太田先生から班員たちの集合写真をいただいた。みんないい笑顔。

鹿児島の農業高校であっても、実家が畜産を営む学生は少なく、9割は非農家だという。それでもこのモチベーションの高さ。これは畜産が根付いた環境、そして彼らを取り巻く、誇りと情熱を持って牛と向かい合う大人たちからの影響、憧れが大きいと感じた。

取材後の8月末、すべての予選が終わり、鹿児島県の特別区代表は、曽於高校の「しえな」に決まった。全力を尽くした高校生、関係者の皆様、本当にお疲れ様でした。



次は鹿屋の女性畜産家・上別府美由紀さんの牧場を訪れます。

第12回全国和牛能力共進会 和牛フェス in かごしま2022

https://zenkyo-kagoshima.com/

  • 営業時間:大会ホームページにてご確認ください。
  • TEL:099-286-3268(第12回全国和牛能力共進会鹿児島県実行委員会)
  • 定休日:会期中は休みなし
  • アクセス:大会ホームページにてご確認ください。

開催日時:
2022年10月6日(木)〜10日(祝・月)【入場無料】

開催場所:
【種牛の部】(鹿児島県霧島市牧園町)
【肉牛の部】(鹿児島県南九州市知覧町)

Twitter:https://mobile.twitter.com/kagoushimama
Facebook:https://m.facebook.com/kagoushimama

この記事を書いた人俵本 美奈

全国5エリアの高校図書館から発信する
月刊フリーマガジン「ch FILES」編集者。

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