第8回農高アカデミーレポート! 「“イベント作り”の裏側を覗いてみよう」
No.354
つながる
産業動物に関わる女性の地位向上や畜産業界の発展に寄与することを目的として2016年1月に発足した「産業動物に興味のある女性の会」(通称:畜ガールズ)。積極的に交流や情報発信を重ね、注目を集めるその活動について、副会長の 上松瑞穂先生からお話をうかがいました。
●産業動物に興味のある女性の会(通称:畜ガールズ)
2016年1月発足。産業動物に関わる女性の地位向上や、畜産業界の発展に寄与することを目的として講演や調査、意見交換会などを実施している。
[ 事務局 ]
宮崎県宮崎市学園木花台西1-1 宮崎大学農学部産業動物臨床繁殖学研究室内
https://chiku-girls.jimdo.com/
会長を務める谷千賀子先生と副会長の上松先生は、現役の女性獣医師。
「畜ガールズ」発足に至ったきっかけのひとつは、ある悲しい出来事だったと上松先生は言います。
「産業動物獣医療に携わった女性獣医師A先生(仮)が、お母さまの介護を理由に長年勤めた職場を離職されました。ところがその後、お母さまは急逝してしまいました。そして、間もなくしてもA先生は自ら逝ってしまわれたのです。」
長年、男性を優先的に採用してきた畜産動物業界。今では若手女性の採用が増えたものの、結婚、出産、子育て、介護と並行して働き続けることが困難な職場は少なくありません。
「この悲しい出来事を通して、まだまだ男性中心の産業動物業界で働く女性のために精神的な支えが必要だと感じました。環境をすぐに改革することは無理かもしれませんが、少なくとも心の中で繋がることはできる。そんな想いからこの会を立ち上げました。彼女の胸中を受け止めるネットワークがあれば、彼女の人生は違っていたかもしれませんので。」
現在、畜ガールズの拠点は全国にわたります。
北海道から九州・沖縄まで7つの区分ごとにブロック長を配置。第一線で活躍する女性獣医師を中心に構成されています。
発起人に名を連ねるのは、日本の産業動物業界を牽引してきた著名な方々。業界における「畜ガールズ」への期待の高さがうかがえます。
入会条件は、産業動物に興味をもっていること。その興味さえあれば「誰でも」入会OKです。
年代は20代から60代まで幅広く、学生も含まれています(会員数74人:2018年10月現在)。
男性会員も活動へ積極的に参加し、悩みを共有できる投稿ページには悩める女性に向けたエールや「初めて育児休業を取得しました」とのコメントが届いているそう。
「これまで男性が家事や育児に関わってこなかったのには、日本の社会構造に縛られていた部分もあります。育児に参加したくても、周りの風潮がそれを許さないとか。そういうものを壊して、新しい風を入れてかないと。」と、上松先生。
多岐にわたる活動の中で、特に重視しているのが「悩みの共有」です。
結婚、妊娠、育児、介護、ハラスメント、と投稿されている内容を読むと、孤独の中で悩みを抱えていることがうかがえます。事務局では投稿をまめにチェックし、リアクションをしているそう。LINEグループの交流も活発で、スピーディーに情報共有できることを強みに、西日本豪雨の際には被災地で暮らす会員の精神的な励ましに役立ったといいます。
また、業界の研究会や学会などで参加型ワークショップを開催することもあるとか。「自らの意思を表に出すことが、より良い環境づくりへの一歩」と上松先生は語ります。
このほか、年一回ペースでメンタルヘルスの講習会も継続し、医師や臨床心理士の協力のもと精神保健について勉強しています。
「鬱になるサインとか、メンタルが傷ついたときは、こうかわすとか。ストレス指数がどれだけかかるか事前に分かっていれば、身の危険を察知できますから。」
参加できなかった人には、内容をウェブ上で報告。所感を添えて情報発信しています。
そんな「畜ガールズ」は今後、どのように展開していくのでしょうか。上松先生にお伺いしました。
「共感しているだけでは、物事は変わりません。畜ガールズを通して、産業動物に関わる女性たちが働き方を見つめ直し、自由に意見を出し合える場になると良いですね」
家庭と仕事の両立といった悩みを抱える世代へ、先輩会員が「こうやって乗り越えたよ」とアドバイスを発信したり、「私の職場ではこんな成功モデルがあるよ」と提案されたことを職場に取り入れてみたり。
悩める女性たちのセーフティーネットとして心に寄り添い、男女が手を取り合える職場のロールモデルを開拓。
産業動物業界の繁栄を見据える「畜ガールズ」のこれからに、期待が募ります。
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