世界を目指す「日本たまごかけごはん研究所」とは?
No.311
つながる
震災直後の福島県相馬市。
津波による被害、放射能による風評被害という非常に厳しい時期に設立した大野村農園は、循環型農業と自然卵養鶏法によるオーガニック卵「相馬ミルキーエッグ」が有名な農園です。
そんな大野村農園のもうひとつの特徴は、子ども向けから大人向けまで、リアルに食を体験できる「食育プログラム」です。
「うませるではなくいただく」というコンセプトの元、さまざまな取り組みを行う大野村農園の食育プログラムについて、代表の菊地将兵さんに、詳しく伺いました。
大野村農園は、農作物の栽培からはじめ、設立3年目から養鶏をスタート。
野菜のクズや相馬の海で捕れた魚のアラなどをエサに育ち、にわとりがしたフンを堆肥として野菜を育てる、完全な循環型農業を実践。そして、人工的なエサや薬を一切使わず、平飼いで育てる自然卵養鶏法による「相馬ミルキーエッグ」で福島産業賞を受賞するなど、風評被害をものともしない活躍を見せています。
代表の菊地さんは、養鶏をはじめる前から卵を使った食育について構想しており、現在、福島食育実践サポーターとして子どもたちを対象にイベントを開催しています。
「震災前は芋掘りとか、手軽に食育を楽しめるイベントをやっていたんですが、震災以降それがキレイになくなってしまったんです。ふくしま食育実践サポーターは、それを自分たちの世代でもう一度復活させようという活動です。養鶏をはじめたときも、ただやるだけではなくて、食育につなげたいと考えていました」
毎日のように食べる卵。なのに、これまで卵を使った食育はあまり行われてこなかったと菊地さん。
これだけ卵を食べているのにも関わらず、ほとんどの子どもたちは卵やにわとりについての知識を知りません。
だからこそ、食育を通じて卵のことをもっと子どもたちに知ってもらおうと思ったとのこと。
「祖父母世代、親世代は庭ににわとりがいて、お父さんやお母さんに卵を取ってこいといわれて、自然と食育を経験していたんです。当時は食育という言葉すらなかったはずです。生活の中で自然に学べるものだったので。現代の子どもたちは、そういう機会に恵まれておらず。卵が自然からのものである感覚が乏しいんです」
はじめて卵とりを行った子どもたちは、卵が温かいことに驚くとのこと。スーパーにあるパックに詰められた冷たい卵しか知らなければ、自然からいただいているという感覚を養うことはできません。
毎日のように食べる卵は、無機質なものではなくにわとりから生まれた命であること、そして、それをいただいているということ。菊地さんは卵とり体験を通じて、子どもたちに卵を食べるということの本当の価値を伝えていきたいといいます。
大野村農園が行っている食育プログラムには、大人向けが用意されています。
それは、生きたにわとりを絞めてさばくという少しハードなもの。
「食べ物が命であるという感覚は、子どもと同様に大人も希薄なっています。鶏肉と行ってもスーパーの肉売り場に並んでいるものを見るくらいで、どちらかというと商品として見ているはずです。いただいているという感覚を実感してもらうために、動き回っているにわとりを捕まえて、首を落として締める。最後にそれをみんなで食べるという流れで、食べるという行為について考える機会になればと思っています」
プログラム参加者の中には、涙を流す人や手が震えるなど、人によってはかなりのインパクトがある体験だと菊地さん。その中には、スーパーに並べられている肉を見て「こんなに安くて良いのだろうか」と考えるようになったなど、食に対する価値観が変わる人も多いとのこと。
「養鶏はじめたときに、おじいちゃんに『さばけないくせに飼う気か』っていわれたんです。僕も最初はじいちゃんに教えてもらいながら、にわとりの締め方、さばき方を覚えました。最初は自分で飼っているにわとりは自分でやろうって決めていたんですが、やってみたいって人が意外と多かったので、大人の食育として屠殺体験を行っています」
大人の食育、屠殺体験を通じて、食べるという行為の尊さを感じてほしいと菊地さん。
食べるとは何か、生きるとは何か。
にわとりを絞めてから食べるまで、全工程を体験することで、日常生活では感じにくい「自然からいただいている」という感覚を得ることができるのではないでしょうか?
「現代人と食べ物は、あまりに乖離しすぎている」と菊地さん。
商品として売られるスーパーの鶏肉。しかし、その裏側には大人の食育で行われていることが、何億何千回と繰り返されています。
食べるとは何か。
卵とりや屠殺を通して、日常では絶対に考えることがないことに気づかせてくれるのが、大野村農園の食育プログラムなのです。