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福岡出身の彼女が、北海道の酪農業界で社長になったお話。

  • #畜産女子

この記事の登場人物

平野 葉子
農業生産法人 株式会社トータルハードカーフサービス
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北海道別海町で仔牛の哺育預託によって、酪農家を支えている「農業生産法人 株式会社トータルハードカーフサービス」。会社を設立したのは母体でもある「株式会社トータルハードマネジメント」の代表を務める佐竹獣医師ですが、2019年4月に当時場長だった平野葉子さんに社長のポジションをバトンタッチしました。若くして会社の代表となった彼女が、これまで歩んできた道のりからインタビュー!
平野さんは福岡県のご出身。中学生のころから、北海道の広大な地で牛とふれ合うことにあこがれを持っていたと振り返ります。

「両親や友人にはいつか北海道で牛と関わる仕事…つまり酪農家として働きたいと話していましたが、冗談にしか受け止められませんでした。でも、中学2年生のころ、担任の先生に進路相談をする時、思い切って胸の内を打ち明けてみたんです。すると、真剣に耳を傾けてくれ、両親に私の考えが本気だと伝えてくれました」

お母さんが見つけた新聞記事が、北海道で酪農生活を始めるきっかけに。

平野さんのお母さんは、子どもには好きな人生を歩んでもらいたいと願う人柄。北海道で酪農家になりたいという夢に本気を感じたことから、彼女が高校生のころに「こんな道も良いんじゃない?」とある新聞記事を手渡したそうです。その内容は酪農家のもとに住み込みで働きながら、農業について学べる北海道別海高等学校農業特別専攻科の紹介だったといいます。

働きながら酪農を学べるのは自分の性格にピッタリだと思いました。迷うことはなく農業特別専攻科に進むことを決め、母が見つけてくれた新聞記事から、北海道での酪農生活がスタートしたんです

北海道の最初の働き先が、運命の出会いを引き込んで

北海道別海高等学校農業特別専攻科は、平野さんが入学すると住み込みで働く先を見つけてくれました。瀬下さんという方が営む牧場に2年間お世話になりながら、机上の学びと実習で酪農の基礎を叩き込む日々。実は、その瀬下さんが「農業生産法人 株式会社トータルハードカーフサービス」設立者の佐竹獣医師との出会いをつないでくれましたが、この時はまだそんな未来を知る由もありませんでした。

農業特別専攻科を卒業した後は、釧路エリアの実習センターに所属してさまざまな牧場を回りました。その後も別海町を中心に、搾乳スタッフとしていくつかの牧場を経験したんです。ただ、牛と関わる仕事自体は楽しい半面、酪農家として新規就農すべきか、従業員として働くべきか迷っていました

平野さんは、時として牛が好きという気持ちだけでは行き詰まってしまうこともあったのだとか。少し恥ずかしそうに「心が折れて2回くらい実家に帰ったこともあります」と正直に打ち明けます。けれど、何ヶ月か休んで落ち着いたころ、いずれもタイミング良く「そろそろウチを手伝ってほしい」と連絡してきたのが最初に働いた牧場の瀬下さんでした。

瀬下さんは株式会社トータルハードマネジメントの獣医を利用していたので、佐竹獣医師とも自然と顔見知りになりました。実は、2014年に株式会社トータルハードカーフサービスを設立するにあたり、佐竹獣医師から仔牛の哺育をやってみないかと誘われたんです…が、他所様の仔牛を預かるのは責任が重いと2度ほどお断りしました。でも、3度目に誘っていただいた時、瀬下さんが『グズグズ迷ってないでやってみれ!』と背中を押してくれたことで踏ん切りがついたんです(笑)

北海道別海高等学校農業特別専攻科が探してくれた最初の働き先。その偶然の出会いが、平野さんと株式会社トータルハードカーフサービスをマッチングするキューピッド役になったのです。

スタッフに気持ち良く働いてもらうために試行錯誤の日々。

平野さんの入社当社、スタッフは彼女ただ一人。預かる仔牛も一頭からのスタートでした。ところが、仔牛の哺育預託は酪農家のニーズも高く、1年後には50頭を飼養できる牛舎が一杯に。3年目には哺育ロボットを導入した「ロボット牛舎」が建ち、スタッフの数は4名に増えました。現在は平野さんの他に正社員が5名、パートスタッフが1名と7人体制に規模が広がっています。ところで、社長になった経緯はどのようなものなのでしょうか?

会社設立者の佐竹獣医師と話している時、唐突に『平野は生え抜きとして頑張っているし、社長をやってみないか?』といわれました。私としては10年後くらいの青写真かと思っていたんですが、昨年4月に急遽バトンタッチすることが決まって(苦笑)。佐竹獣医師に経営やお金のやりくりをサポートしてもらいながら、今は会社の回し方を勉強中です

平野さんにとっては寝耳に水の交代劇とはいえ、胸中には「もっと楽しく働ける職場にしたい」という使命感が灯りました。仔牛を健康に育てるという企業としてのミッションを全うしながら、スタッフにどう気持ちよく働いてもらうかを真剣に考えるようになったと表情を引き締めます。

今は毎週ミーティングを開き、スタッフの意見をすべて共有するようにしています。例えば、スターターを入れるバケツが深すぎるという意見から浅い皿に交換したり、女性社員のアイデアから敷料に紙くずを混ぜてコストカットを図ったり、小さな改善にも耳を傾けるように努めているんです

仕事に追われ、時間にも追われていては、業務の合間に仔牛を愛でる余裕すら生まれません。そのため、日々の業務効率を高め、月に6日休めるようにするなど労働環境も徐々に整えているところです。また、指導についても自身の経験を漠然と伝えるのではなく、仔牛の観察時に注意する点は「耳がたれている」「目がくぼんでいる」「呼吸が速い」など、きちんと言語化して技術を教えるように工夫しています。

当社の仕事は成牛に比べて体の小さな仔牛を相手にする上、機械化も進めているので女性でも十分に務まります。実際、スタッフは女子のほうが多く、今年は新卒の若者も採用しました。ただ、みんなの給料を上げるためにはもっと仔牛を預からなければなりませんし、そのためには牛舎を増やす必要もあり…そんな将来のことを妄想しながら、仲間と働くことが今は一番の楽しみですね

 
株式会社トータルハードカーフサービス
北海道野付郡別海町上春別旭町22番地
080-9000-0643
http://thms.jp

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